文化と技術には、どのような関連があるのか。
2月12日、在大阪スイス領事館で開かれた「世界経済フォーラム(ダボス会議)」の報告会に参加した。今年は「人類とAIの共生」が議論されたという。フォーラムの「ヤング グローバル リーダーズ」に選出され、会議に出席した僧侶・哲学者の松本紹圭さんは、我が国の文化的背景を基に、日本人にとってAIは「ドラえもん」のようなもので、お友達としての付き合いが始まる-と、お話しになったとのことだった。
このお話を伺い、京都精華大で初代マンガ学部長をされた牧野圭一先生が、マンガがいかに産業ロボット振興に貢献したかについて語っていたのを思い出した。
牧野先生は、手塚治虫さんが創作された「鉄腕アトム」によって、多くの日本人に「ロボットが正義の味方で人類の友達」との理念が根付き、素直に産業ロボットを受け入れることができてマーケットが拡大したと述べられていた。
当時、私はトヨタ生産方式を勉強していた。国内の工場を訪問すると、無骨な産業ロボットに「百恵ちゃん」「淳子ちゃん」との名札が貼られていた。対照的に、アメリカではロボットに対する排斥運動が起こっていた。
鉄腕アトムはAI付きのロボットということか。そう思い当たり、手塚さんの未来を描く力はすごいと感じた。
既に職場では、AIを使って会議の内容を要約することが日常になりつつある。一方、卒業論文での使用制限や作製されたデザインの著作権問題、AIで作られたフェイクニュースの社会的インパクトと信頼できる情報の入手方法など、さまざまな課題が毎日流れてくる中に身を置く状況が続いている。
先日、京都府が開催した研究会で講師を務めた方は、前日に新しいAI技術の発表があったので、夜のうちに資料を作り替えないといけない状況になったという。急速な技術革新に、専門家でもついていくのに苦労する時代を迎えていると話されていた。技術の高度化と普及は加速している。
2000年代初頭に育った子どもたちを「デジタルネイティブ」と呼んだように、今の時代に育つ子どもたちは、いずれ「AIネイティブ」と呼ばれてもおかしくない時代を迎えようとしている。
レイ・カーツワイルは著書『シンギュラリティはより近く』でこう述べた。2045年にはAIとクラウド接続し、知能が数百万倍に拡張する。そして、人類は「生物学的限界を超える」-
これまでの技術革新と、AIが人類に与える影響とではレベルが違うように思う。間近に迫るAI時代は人類にとって真にハッピーな社会になるのだろうか、との不安も強い。また、人が人であることの哲学的な意味も問い直さないといけないように思う。
AIとドラえもんのような友達付き合いができる社会の実現に向けて、解決すべき課題が多く横たわっているように思う。
京都新聞 ON BUSINESS 2025年5月26日 掲載